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サッカーボール事件で親の監督責任否定~最高裁平成27年4月9日判決

校庭から転がり出したサッカーボールを避けようとして転倒事故が起きた場合、ボールを蹴った子供の親が監督責任を負うか、が争点となった訴訟で最高裁第一小法廷は親の監督責任を否定する画期的な判決を下しました。

 

ネット上で判決全文が公開されています。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/032/085032_hanrei.pdf

「親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は、ある程度一般的なものとならざるを得ないから、通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない」
民法714条1項を正しく解釈したもので極めて妥当で正当な判決だと思います。

 

判決によると、校庭にあったサッカーゴールの後方約10mの場所には高さ1.3mの門扉があり、その左右には校庭に沿って約1.2mのネットフェンスが設置されており、校庭と道路の間には幅約1.8mの側溝があっということです。小学校の周辺には田畑も存在し、道路の交通量は少なかったとされています。
11歳の小学生が校庭で友達と普通に遊んでいて、蹴ったボールが偶然に門扉を越えて路上に転がり出て、それを避けようとしたバイクの85歳の男性が転倒して負傷し、入院中の約1年4か月後に誤嚥性肺炎で死亡したとのこと。

 

たまたま通りかかった老人及びその家族らにとって不幸な出来事であることは間違いありませんが、同時に子供やその親にとっても不幸な出来事です。
事故を起こしてしまったことに苦悩する上に何千万円もの損害賠償を請求されるのです。

 

これまで「被害者救済」の美名のもと、民法714条1項の監督義務を怠らなければ責任を免除されるとのただし書きは無視され、本件の1審、2審をはじめ、ほぼ全ての裁判例が親の責任を機械的に肯定してきてきました。

原審は、ゴールに向けてサッカーボールを蹴ることはその後方にある道路に向けて蹴ることになり、蹴り方次第ではボールが本件道路に飛び出す危険性があるから、親にはこのような場所では周囲に危険が及ぶような行為をしないよう指導する義務、すなわちそもそも本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴らないよう指導する監督義務があり、これを怠ったとしています。

蹴り方次第ではボールが本件道路に飛び出す危険?-こじつけが過ぎます。

 

事故が起こることなど想像もできない状況下で、普通に遊んでいる小学生の行為によって、たまたま人身に損害を生じさせた場合にまで親の監督責任を問うのは余りに理不尽です。
しつけができていない子供が包丁を振り回して第三者を刺殺した場合とは全く状況が違うのです。
「法は不可能を強いるものではない」という法諺がありますが、裁判所は民法714条1項に関しては、深く考えないまま監督義務者に不可能を強いてきたのだと思います。

 

現実社会は完璧なものではなく、完全に安全でも平和でもありません。
不幸にしてどちらも悪くないという偶発的な事故が起こることも避けられません。
<一方が被害者で、他方が加害者>と単純に割り切り、<被害者なのだから加害者の責任をどこまでも追及するのは当然>という考え方や風潮は、世の中を幸福にするものではありません。
場合によっては、加害者を大きく傷つけることにもつながります。

 

避け難いリスクに対しては、人身傷害補償保険や生命保険に加入するなどの自己防衛で対処すべきなのではないでしょうか。
(横井盛也)

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