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『裁判に尊厳を懸ける-勇気ある人びとの軌跡』(大川真郎著・日本評論社・1700円)

世の中の不条理に鋭く切り込む社会的に意義のある事件。
弁護士なら誰しもそんな事件に関わってみたいと考えるに違いありません。

 

本書は大阪弁護士会副会長、日弁連事務総長などを歴任した重鎮・大川真郎弁護士が社会的に大きな影響を与えた7つの事件について、ともに闘った事件の当事者にスポットを当てて振り返った回想録です。
かなり古い事件ばかりなのですが、先達の労苦によっていかに現在の我々が報われているかを実感させられます。

 

例えば杉山弁護士接見妨害事件。
刑事訴訟法の教科書や判例百選で学んだあの事件です。
刑訴法39条3項は、捜査のため必要があるときは、接見の日時、場所及び時間を指定することができるとしたうえで、その指定が被疑者の防禦権を不当に制限するようなものであってはならないと定めています。
捜査権と接見交通権との調整を目指すこの条文を巡って、なるべく外界から遮断した状態で被疑者の取調べをしたいと考える捜査機関と接見交通権は被疑者の防禦に関する基本的権利で安易な指定は許されないとする弁護人との間で激しく争われた事件です。
最高裁判決(昭和53年7月10日)は、被疑者の接見交通権が憲法34条前段の保障に由来すると述べ、「弁護人等から接見の申出があったときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならず、指定による制限は、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合に限られ、またその場合も、弁護人等と協議して速やかな接見のための日時を指定すべき」と当時としては画期的な判決を下します。
教科書や判例百選等で学ぶのはだいたいこんなところです。

 

しかし本書は、そんな表面的な解説ではありません。
3人の被疑者と計30分間の接見をするために11時間もかけなればならなかったような当時の実態、一般的指定書や面会切符の要求などといった制度や運用を打破するために立ち上がった弁護士らの奮闘ぶりや労苦が実際に関わった者にしかなしえない迫真性をもって語られています。

 

私は未だ捜査機関の接見妨害など経験したことはありません。
一般的指定書とか面会切符といった言葉は今では死語です。
逆に警察署から「被疑者が接見を希望していますよ」といった連絡が頻繁に入ったりして、「また~?」、「毎日やん」といった具合です。
条文は素っ気ないものです。
その解釈によって運用は如何様にも変わるのです。
条文に魂を吹き込むための闘い、その一過程を疑似体験できる好著です。

 

このほか四日市公害訴訟、豊島産業廃棄物不法投棄事件など社会にインパクトを与えた事件の当事者が抱いた苦悩や勇敢な闘いぶりが生き生きと描かれています。

 

著者がはしがきで引用する19世紀のドイツの法律家イェーリングの名著「権利のための闘争」の言葉、

「自己の権利を守ることによって法一般が守られ、法一般が守られることによって自己の権利が守られる」は真理を突いています。
(横井盛也)

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