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「ノルウェイの森」 村上春樹著

週末に映画「ノルウェイの森」(原作:村上春樹)を見たのですが、その余韻は半端なものではありませんでした。

喪失感や哀切といったものが、心の中に深く分け入り、沁み込んできたという感じです。

混乱する精神世界を表象した一面の霞んだ風に揺れる草原、通奏低音のように響く不協和音、精神疾患の直子の取り乱す姿など印象的な映像・音響や台詞が頭から離れず、暫く何もする気が起きませんでした。

<死は生の対極としてではなく、その一部として存在している>とはどういうことなのだろうか…。

長い時間ベッドに横になって考え込みました。

大画面であるほど楽しめるアクション映画とは全く異なる心象風景を描いた文学作品です。映画館ではなく、レンタルDVDを自宅で見たのは正解でした。

 

そして原作を25年ぶりに読んでみました。

国内小説累計発行部数1000万部超で歴代1位の記録を更新し続けているだけのことはあります。

大学生の頃に読んだときには、なぜベストセラーになるのか理解できなかったのですが、年月を経て私も成長したのでしょう。

ノスタルジックな時代背景をベースに愛と苦しみ、生と死、永遠と刹那といった普遍的なテーマを扱った<究極の純文学>であると感じました。

主人公の僕(ワタナベ)を中心にキズキと直子、直子と緑、直子とレイコ、永沢さんとハツミという何重もの三者の関係の中で大学生ワタナベの揺れ動く心理の綾や葛藤を浮き彫りにした見事な作品です。

 

ハンブルク空港に着陸する飛行機の中でビートルズの「ノルウェイの森」のメロディーを聞いて僕(ワタナベ)は混乱し、

――何故彼女が僕に向かって「私を忘れないで」と頼んだのか、その理由も今の僕にはわかる。もちろん直子は知っていたのだ。僕の中で彼女に関する記憶がいつか薄らいでいくであろうことを。だからこそ彼女は僕に向かって訴えかけなければならなかったのだ。「私のことをいつまでも忘れないで。私が存在していたことを覚えていて」と。

そう考えると僕はたまらなく哀しい。何故なら直子は僕のことを愛してさえいなかったからだ。――

こうして小説は、18年前の回想に入ります。

 

僕(ワタナベ)は、直子が僕のことを愛していなかったと断言していますが、本当に直子はワタナベのことを愛していなかったのでしょうか。

精神疾患(症状からみて間違いなく統合失調症)の直子が自分の死を予感していたとしても、恋愛感情とは両立しないものではありません。

単に支えてもらいたいなどといった感情ではないはずです。

奥底から湧き出る直子の心の叫びを聞けばわかります。

直子の20歳の誕生日のワタナベの言動が直子の病状を悪化させた要因の一つであることは間違いありません。

私は、僕(ワタナベ)が直子を失った喪失感や罪悪感から逃げているだけなのであり(深層心理からの逃避)、直子は、幻聴や混乱に苦しみながらもワタナベを心の底から愛していたのだと思います。

 

「ノルウェイの森」に浸った週末でした。

(横井盛也)