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1票の格差

投票価値に最大5倍の格差が生じていた2010年7月の参院選について、最高裁は先日、選挙無効の請求は退けたものの「違憲状態」と判断しました。

最高裁は、これまでにも衆院選、参院選を問わず同様の裁判で、国会に対し、現行の定数配分が投票権の不平等をもたらしているとして1票の格差の抜本改正を迫り続けています。今回もその流れに沿った予想通りの判決であり、「またか」といった感じです。

 

「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」(憲法43条)。

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」(憲法14条1項)。

選挙権は民主国家において最も基本的といえる大切な権利であり、平等の重みの1票の保障を目指すべきことは当然です。

 

しかし、私は、最高裁の一連の判決に違和感を覚えます。

国会の裁量を余りにも狭く捉え過ぎているのではないかという点とこのまま国会の不作為が続けば近い将来、選挙無効の判決もありうるとの脅迫的文言で抜本改正を迫るのは行き過ぎなのではないかという点についてです。

 

最高裁は、今回の判決で参院選について「都道府県ごとの選挙区を改める必要がある」などと述べ、現在の仕組みそのものの見直しを求めています。

例えば、鳥取県の定数を1とすれば、神奈川県は30人を当選させなければならないといった計算になることから、そもそも都道府県を単位とした定数配分はやめるべきだといっているのです。

また、平成23年3月23日の最高裁判決では、衆院選について、各都道府県にあらかじめ定数1を配分する1人別枠方式は平等の要請に反して合理的ではないとする判断を示しています。

 

最高裁は、都道府県を軽視しているようです。

私は、都道府県は選挙区割りの際に無視することのできない基礎的な要素の1つであり、人口のみならず、選挙区の面積、選挙区の地域としてのまとまり、人口密度、国政の中心地からの距離等についての一定の配慮は許されるべきであり、具体的な定数配分は現憲法下において国会の広い裁量にゆだねられるべきである、と思います。

裁判所も北海道を除いて各都道府県に1つの地方裁判所と家庭裁判所を設置しています。

行政の多くも各都道府県単位で担われていますし、住民自治の観点からも都道府県は重要な区割りとなっています。

 

人口の地域間格差は相当なもので、平等な重みの1票を保障する選挙区割りをすることはたやすいことではありません。

例えば、2012年夏の高校野球では、鳥取県は25校、大阪府は181校で地区予選が行われました。鳥取県は5回(又は4回)勝てば優勝、大阪府は8回(又は7回)勝たなければ、甲子園に出場できないのです。大阪府で5回戦を突破したチームは8校。実に8倍の地域間格差が生じています。

最高裁は、形式的な平等を重視する余り、国会の裁量権を狭く解し、定数配分を厳格に考え過ぎているのではないでしょうか。

 

三権分立の制度は、立法、行政、司法がそれぞれの権力の独走を防止するため互いに牽制しあうという国の重要かつ根本的な仕組みであり、司法の違憲立法審査権を立法府が無視するといった状態が長く続くことは決して好ましいことではありません。

最高裁が選挙無効の判決もありうるなどといった脅迫めいた強い文言を使えば使うほど、かえって逆に司法の権威を貶めはしないかと心配です。

 

ついでに言っておくと、定数配分の改正は、現職議員の首がかった問題であり、かつ党利党略も絡んで改革が容易に進みませんが、これは構造的な問題によるところが大きいと思います。

「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める」(憲法47条)、

「両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。」(憲法43条2項)、

「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」(憲法41条)、

とされていますが、議員の定数や選挙区割は独立した第三者機関が決めるべきあり、そもそも国会が決めると定めている憲法自体に欠陥があるのではないでしょうか。

(横井盛也)